AIによる24時間365日相談の衝撃 

こんばんは。横須賀市議会議員の堀りょういちです。

私は自殺対策を推進するNPO法人で、生きづらさを抱える方の相談・支援をに携わってきました。

 

その立場からすると、今回横須賀市が民間事業者と連携して行う

「生成AI技術を活用した傾聴相談サービスの実証実験」は非常に興味深く、そしてインパクトの大きい取組です。

 

※詳細はこちら↓

https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0835/nagekomi/20251009_ai_soudan.html

 

横須賀市では、これまでも福祉の総合相談窓口である「ほっとかん」の設置をはじめ、「福祉の LINE 相談」など、人による相談体制の充実を図ってきました。

 

いわゆるコールセンターやデパートの総合受付のように、コンシェルジュ的な機能とは異なり、

福祉関連の相談の中には希死念慮のある方もいます。

不用意な発言が、最悪その人を死に追い込んでしまう可能性もあるわけで、とてもロボットなどには任せられない。

ちゃんと研修を受けた「人」が対応するべきだと、そのように言われてきました。

 

私もNPOで働いていた時は、電話相談を受けたことがありますが、

「今から死のうと思っている」という人の相談を何度も受けたことがあります。

その人の気持ちを受け止めつつ、しかし自殺への行動をなんとか止めなければなりません。

なんとか、その人から前向きな言葉を引き出すことができて、電話を切った時は、全身から疲労感が吹き出してきて、

一緒のスタッフからたくさんのねぎらいの言葉をかけてもらったのを覚えています。

 

しかし、LINEなどのチャットツールが急速に発展し、コロナ禍で社会全体のデジタル化が一層進みました。

そんな中で「電話相談なんて古い」となって、チャットでの相談窓口が多く設置されました。

横須賀市でもLINEを使った福祉相談を行なっており、市の職員が昼夜頑張ってくれています。

 

このように相談対応のツールは多様化し、充実しているようではありますが、

それに対応する人を充実することは難しい現状で、相談員の不足は現場では大きな課題になっていました。

加えて、役所は基本的に平日日中のみの対応ですから、深刻な相談のケースが多い深夜や早朝の時間帯などはリアルタイムに対応できず、これも課題でした。

 

そんな中、さらなる技術進歩の中で今回現れたのが「AI」という人ならざるものの存在です。

 

生成 AI を活用した、悩み相談に特化した傾聴 AI で、大きな特徴は4点です。
(1)24 時間 365 日相談対応が可能
(2)臨床心理士、言語学者等が監修
(3)多言語(日本語・英語)での相談が可能
(4)必要に応じて実際の職員への連携機能

 

そして対象とする相談内容は、

【福祉系の相談】
(1)福祉相談
(2)こころの相談
(3)子育てのなやみ相談
【児童、生徒向け相談】
教育相談

 

と広くカバーします。

 

傾聴相談 AI 導入により想定される主な効果として

(1)市民にとっての効果
・相談のハードルが下がり、気軽に悩みを話せる
・時間や場所を気にせず、必要な時にすぐ相談できる
・外国籍市民も言語の壁なく相談できる

(2)行政にとっての効果
・潜在的な相談ニーズの掘り起こし
・相談データの蓄積による市民ニーズの可視化

(3)社会的意義
・孤立防止と早期支援につながる新たな相談モデルの構築
・AI 技術による公共サービスの質の向上

 

があるとしています。

なるほど、これまでの相談に対する課題に対して、AIはそれをしっかり補完してくれそうです。

 

一方で、懸念点もいくつかあります。

1.本当にAIが適切な相談対応をできるのか

→当然の不安要素です。

しかし、人も常に適切にできない(むしろ人によって粗さが生じる)ということを考えると、

これは必ずしも課題とは言えないのかもしれません。

 

2.コンシェルジュ的になってしまわないか。傾聴のみになってしまわないか。

→相談があったら、それを解決しようと思うのが本来です。

しかし、中には受け止めてほしいと思うものです。

そもそも行政では解決が難しい問題もあります。

そうしたものに対して、ただ単に専門的な窓口を紹介するだけだったり、「それは対応ができません」などという回答が来たらどうなるでしょうか。

 

今回のAI相談は「傾聴相談」ですから、きっとそうはならないのでしょう。

一方で傾聴のみになってしまうのもそれは課題です。

私が電話相談をしていた時は受け止めつつも、その人の話ぶりや内容などを判断しながら、必要な支援先につなぐことで根本的な解決に繋げていくという取り組みをしていました。

この「傾聴」と「解決へのアプローチ」をどう行なっていくかが非常に難しく、ここをどのようにAIが判断するのでしょうか。

 

 

3.AIに人の温もりは宿るのか

→哲学的な問いかけのようになってしまいましたが、皆さんはどう思いますか。

「エッセンシャルワーカー」という言葉がコロナ禍で流行しました。

人々の日常生活や社会基盤を維持する上で「必要不可欠な」仕事に従事する労働者のことであり、

それは人にしかできないものと思われてきました。

 

しかし、急速なAIの発展、そしてロボット技術の進化の中で、

将来ドラえもんのような存在がリアルに生まれた時、

エッセンシャルワーカーは人のみの仕事になりうるのでしょうか。

そんな未来は決して遠い世界ではないと、ここ数年の爆発的なAI技術の発展を見れば思います。

 

そんな時、人の価値はどこに置かれるのでしょうか。

その一つは、人にしかできない「共感」という力だと思います。

 

人の辛い気持ちを、自分の経験や体験から受け止められるのは、やはり人にしかできません。

どんなに当意即妙な回答がAIから帰ってきたとしても、そのAI自身の体験から導き出されたものではありません。

上手な回答でなくても、共に涙を流し、手を取り合える、そういう価値は残り続けるはずです。

 

このテーマは10分ではとてもまとめきれないのでここまでにしますが、

この実証実験がどういった結果を出すのか、私はとても注目しています。

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